1回戦目が終わり、プレイヤーは文字通りの勝ち組と負け組とに大別される。
既に権利を持っている人が多く、繰り下がりが期待できるとはいっても、
当然ある程度上位に進まなければ、権利を狙うのは難しい。
その為にも、勝った人は勿論のこと、負けた人も上へあがる為には
この戦いは絶対に負けてはならない一戦となる。
今回フューチャリングするのは、そんな「負けられない戦い」に赴く
中山(赤t緑黒)と阿部(赤単スライ)の卓である。
互いに初戦を落とし、もう後が無い状態である。
-----------------------------------------
中山は、赤を軸にしたデッキを好むプレイヤーだ。
しかし、先のPTQベルリンで筆者の内面ホライズンにフルボッコにされた彼は
そのトラウマから「もう赤単は使いません」と宣言した。
http://diarynote.jp/d/85896/20080728.html(※リベンジGOGPの項参照)
そんな彼が今回持ち込んだのは、赤t緑黒というオリジナルデッキ。
赤単に緑を混ぜて《炎渦竜巻》を搭載する、までは筆者も考えたが
彼のデッキにはまさかの《カメレオンの巨像》と《雲打ち》の姿が。
更には、メインに《粉々》を搭載するなど、独特の構成だ。
雲打ちの緑緑緑緑はどうやって出すのだろう、とか
《粉々》は何に対して打ちたいのだろう、とか
色々と考えるべき点はあるが、きっとそれは彼なりの考えあっての事。
決まり切った形に捕らわれない彼のデッキは確かに面白くもある、
ヤマディアンならぬナカヤマディアンとでも称するべきだろうか。
一方、阿部ははるばる埼玉から来た遠征プレイヤーである。
北海道への旅行がてら、イエサブを覗いたら大会をやっていたので参加したとの事。
彼のデッキで特徴的なのは、何といっても低マナ域の多さ。
まずは、本人の許可を得て教えて貰った彼のデッキをご覧頂きたい。
1マナ域が23枚、土地が18枚。4マナ以上のスペルはゼロと、
もの凄く思い切った構成。気持ちが良い程の切り詰めっぷりだ。
今では忘れ去られていた存在である《火花の精霊》の起用に信念を感じる。
「何か最近赤単っていうのが固定化してきて、つまらないじゃないですか。
赤単やりたいならまずは《変わり谷》だとか《復讐の亜神》だとか
何かそういうのってつまらないと思うので、思い切った構成にしてみました。
一瞬の輝きに賭けますよ。」
そう語る彼は、我が道を行く自信に満ちあふれた表情だった。
規定の赤単に捕らわれる事をよしとせず、
赤t緑黒の道を選んだ中山と、超速攻赤単の道を選んだ阿部。
アルターネイト赤単対決とも言うべき戦いの幕が開く。
--------------------------------------------------
Game1
先手は中山。1マリガンからのスタート。
ゲーム開始と同時に中山の初手を見て、筆者は驚きを覚える。
既存の赤単にはついぞ見慣れなかったパーツばかり、
果たして、中山はこの初手からどのようなゲームプランを描いているのだろうか。
中山は土地をセットし、ターンを渡す。
阿部は《冠雪の山》をセットし、《運命の大立者》をプレイ。
実に彼の赤単らしい、軽快な立ち上がりである。
2ターン目、中山は有効なアクションを起こす事が出来ず、ターンエンド。
続く阿部のターンは《火花の精霊》をキャストし、
《運命の大立者》と共に中山へと襲いかかり、容赦なくライフを削っていく。
3ターン目、中山は《炎渦竜巻》をプレイし、場を一掃。
何とかこれで難を逃れたか…と思った瞬間、
返しの阿部のターン、おもむろに阿部は3枚の土地をフルタップし
《モグの狂信者》《モグの狂信者》《ぼろ布食いの偏執狂》と流れるように展開。
悲鳴を上げる中山。有効な対策がとれないまま、サンドバッグ状態で殴られる。
追い打ちを掛けるように、阿部は《運命の大立者》を盤面に送り出す。
中山の頼みの綱の《復讐の亜神》も、あまりに劣勢なこの状況では、
試合をひっくり返す事は不可能だった。
勢いに任せた阿部の軍勢が、中山へと襲いかかる。
1マナクリーチャー達の猛攻を受け、中山は倒れた。
中山 0 - 1 阿部
--------------------------------------------
Game 2
先手は中山。土地をセットし、阿部へとターンを渡す。
阿部は《冠雪の山》をセットし、タップ。《裂け目の稲妻》を待機させる。
続くターン、中山は《ケルドの匪賊》をプレイし、ターンエンド。
返しに阿部は、稲妻を本体に撃ち込んだ後、《火花の精霊》で攻撃をかける。
少し悩んだ後、《ケルドの匪賊》でブロックする中山。共に相打ちとなる。
続く中山のターンに《難問の鎮め屋》が盤面に送り出される。
が、これに対しては阿部の《雪崩し》が生存を許さない。
今度は逆にこちらから攻めてやるとばかりに、
阿部は《ギトゥの宿営地》をクリーチャー化し、攻撃を仕掛けるも、
これに対しては中山の《つっかかり》。
お互いに火力とクリーチャーをぶつけあう消耗戦の様相となり、
しばらくの間、お互いに目立ったアクションもないまま盤面は硬直する。
試合を制したのは、中山の引きの強さだった。
場が空になった状態から、《ボガード突撃隊》を引き当て、
即座に3点のダメージを本体へとたたき込む。
更に続くターン、彼がデッキトップからドローしたのは《復讐の亜神》。
ボガード突撃隊と合わせて8点クロックとして、容赦なく阿部を攻める。
対抗策を何とか探そうとした阿部だが、
彼のデッキの構成上、今引き勝負となると不利なのは否めない。
《復讐の亜神》を捌くカードを引く事が出来ず、
1ゲーム目のお返しとばかりに、阿部は高コストクリーチャーに押し潰された。
中山 win!
中山 1 - 1 阿部
----------------------------------------------
Sideboarding
ここで、面白い現象が起こる。
阿部のサイドボードには、同型を意識した《ドラゴンの爪》が用意されていた。
しかし、阿部はGame2にはそれをサイドインせずに眠らせたままにしておいた。
そして、Game3ではうってかわって《ドラゴンの爪》をガン積みしたのだ。
一方、中山のデッキにはメインボードから《粉々》が入れられていた。
《ドラゴンの爪》を警戒してか、Game2も《粉々》はメインに入れられたままだ。
しかし、阿部のデッキに《ドラゴンの爪》以外のアーティファクトは無い。
1戦目、2戦目とも、常に手札で腐っていたカードとなっていた。
その為か、中山はGame3に《粉々》を全抜きする判断を下した。
結果、どうなるか。
この両者の動きを分かりやすく示すと、以下の通りとなる
中山 阿部
Game1 《粉々》in アーティファクト無し
Game2 《粉々》in アーティファクト無し
Game2 《粉々》out 《ドラゴンの爪》in
偶然とは言え、サイドボードの段階で、
阿部が相当有利な立場に立っている事が伺える。
マジックに勝つ為には、運とプレイングが必要なのは今更言うまでもないが、
相手のデッキを読んでデッキを構築するという技術も必要なのだ、という事を
改めて筆者は認識しつつ、両者のサイドボードを見守った。
------------------------------------------------
Game 3
先手は阿部。
何と、彼は土地1枚でキープを宣言。
極端に軽い構成にしてある彼のデッキだからこそ可能な荒技だ。
そして、さきほどの負けを取り返してやるといわんばかりに、
《冠雪の山》をセットし、《裂け目の稲妻》を待機させる。
対する中山のハンドは《カメレオンの巨像》《雲打ち》などの
カードパワーは高いものの重いカードで満たされ、動けないままだ。
阿部の勢いは止まらず、中山の動きが止まっているのを好機と見て
続けざまに《裂け目の稲妻》を追加で待機させ、
更に《ぼろ布食いの偏執狂》を盤面に追加し、攻めの手を全く緩めない。
中山が何とか対抗しようと送り出した《ボガードの突撃隊》に対しても
即座に《つっかかり》が撃ち込まれ、勢いは止まらない。
更に追加される《ぼろ布食いの偏執狂》、そして《裂け目の稲妻》。
対抗手段を持たない中山は、もの凄い勢いでライフが削られていく。
そのまま逆転する事もなく、阿部は中山のライフを削りきる。
手札の《雲打ち》が寂しそうに佇んでいた。
赤t黒緑と超速攻赤単のアルターネイト赤単対決は、
超速攻赤単の真髄を見せつけ、阿部が勝利する結末となった。
中山 1 - 2 阿部
阿部 Victory!!
------------------------------------------
次回予告
R3 渡辺(Project420.5n) vs 井上(緑単ビッグマナ)
奇妙な巡り合わせである。
渡辺と井上は、先日のICA8周年大会において、決勝卓で対戦を行った二人だ。
そして、その時の様子は、偶然にも同じく筆者がカバレッジを書いている。
(参考URL:http://kitaevent.paslog.jp/article/922902.html)
何か因縁めいたものを感じるこの対戦。
8周年記念大会では井上のビッグマナが渡辺の赤黒トークンズを制したが、
今回は、勝利の女神は井上と渡辺、どちらに微笑む事になるのだろうか。
既に権利を持っている人が多く、繰り下がりが期待できるとはいっても、
当然ある程度上位に進まなければ、権利を狙うのは難しい。
その為にも、勝った人は勿論のこと、負けた人も上へあがる為には
この戦いは絶対に負けてはならない一戦となる。
今回フューチャリングするのは、そんな「負けられない戦い」に赴く
中山(赤t緑黒)と阿部(赤単スライ)の卓である。
互いに初戦を落とし、もう後が無い状態である。
-----------------------------------------
中山は、赤を軸にしたデッキを好むプレイヤーだ。
しかし、先のPTQベルリンで筆者の内面ホライズンにフルボッコにされた彼は
そのトラウマから「もう赤単は使いません」と宣言した。
http://diarynote.jp/d/85896/20080728.html(※リベンジGOGPの項参照)
そんな彼が今回持ち込んだのは、赤t緑黒というオリジナルデッキ。
赤単に緑を混ぜて《炎渦竜巻》を搭載する、までは筆者も考えたが
彼のデッキにはまさかの《カメレオンの巨像》と《雲打ち》の姿が。
更には、メインに《粉々》を搭載するなど、独特の構成だ。
雲打ちの緑緑緑緑はどうやって出すのだろう、とか
《粉々》は何に対して打ちたいのだろう、とか
色々と考えるべき点はあるが、きっとそれは彼なりの考えあっての事。
決まり切った形に捕らわれない彼のデッキは確かに面白くもある、
ヤマディアンならぬナカヤマディアンとでも称するべきだろうか。
一方、阿部ははるばる埼玉から来た遠征プレイヤーである。
北海道への旅行がてら、イエサブを覗いたら大会をやっていたので参加したとの事。
彼のデッキで特徴的なのは、何といっても低マナ域の多さ。
まずは、本人の許可を得て教えて貰った彼のデッキをご覧頂きたい。
// Lands
15 [CS] Snow-Covered Mountain/冠雪の山
3 [10E] Ghitu Encampment/ギトゥの宿営地
// Creatures
4 [EVE] Figure of Destiny/運命の大立者
4 [10E] Mogg Fanatic/モグの狂信者
4 [10E] Spark Elemental/火花の精霊
4 [SHA] Tattermunge Maniac/ぼろ布食いの偏執狂
3 [PLC] Blood Knight/血騎士
2 [EVE] Stigma Lasher/斑点の殴打者
// Spells
2 [TSB] Browbeat/怒鳴りつけ
4 [SHA] Flame Javelin/炎の投げ槍
4 [10E] Incinerate/火葬
4 [LRW] Lash Out/つっかかり
3 [CS] Skred/雪崩し
4 [TSP] Rift Bolt/裂け目の稲妻
1マナ域が23枚、土地が18枚。4マナ以上のスペルはゼロと、
もの凄く思い切った構成。気持ちが良い程の切り詰めっぷりだ。
今では忘れ去られていた存在である《火花の精霊》の起用に信念を感じる。
「何か最近赤単っていうのが固定化してきて、つまらないじゃないですか。
赤単やりたいならまずは《変わり谷》だとか《復讐の亜神》だとか
何かそういうのってつまらないと思うので、思い切った構成にしてみました。
一瞬の輝きに賭けますよ。」
そう語る彼は、我が道を行く自信に満ちあふれた表情だった。
規定の赤単に捕らわれる事をよしとせず、
赤t緑黒の道を選んだ中山と、超速攻赤単の道を選んだ阿部。
アルターネイト赤単対決とも言うべき戦いの幕が開く。
--------------------------------------------------
Game1
先手は中山。1マリガンからのスタート。
ゲーム開始と同時に中山の初手を見て、筆者は驚きを覚える。
《カメレオンの巨像》
《炎渦竜巻》
《粉々》
《針落とし》
土地×2
既存の赤単にはついぞ見慣れなかったパーツばかり、
果たして、中山はこの初手からどのようなゲームプランを描いているのだろうか。
中山は土地をセットし、ターンを渡す。
阿部は《冠雪の山》をセットし、《運命の大立者》をプレイ。
実に彼の赤単らしい、軽快な立ち上がりである。
2ターン目、中山は有効なアクションを起こす事が出来ず、ターンエンド。
続く阿部のターンは《火花の精霊》をキャストし、
《運命の大立者》と共に中山へと襲いかかり、容赦なくライフを削っていく。
3ターン目、中山は《炎渦竜巻》をプレイし、場を一掃。
何とかこれで難を逃れたか…と思った瞬間、
返しの阿部のターン、おもむろに阿部は3枚の土地をフルタップし
《モグの狂信者》《モグの狂信者》《ぼろ布食いの偏執狂》と流れるように展開。
悲鳴を上げる中山。有効な対策がとれないまま、サンドバッグ状態で殴られる。
追い打ちを掛けるように、阿部は《運命の大立者》を盤面に送り出す。
中山の頼みの綱の《復讐の亜神》も、あまりに劣勢なこの状況では、
試合をひっくり返す事は不可能だった。
勢いに任せた阿部の軍勢が、中山へと襲いかかる。
1マナクリーチャー達の猛攻を受け、中山は倒れた。
中山 0 - 1 阿部
--------------------------------------------
Game 2
先手は中山。土地をセットし、阿部へとターンを渡す。
阿部は《冠雪の山》をセットし、タップ。《裂け目の稲妻》を待機させる。
続くターン、中山は《ケルドの匪賊》をプレイし、ターンエンド。
返しに阿部は、稲妻を本体に撃ち込んだ後、《火花の精霊》で攻撃をかける。
少し悩んだ後、《ケルドの匪賊》でブロックする中山。共に相打ちとなる。
続く中山のターンに《難問の鎮め屋》が盤面に送り出される。
が、これに対しては阿部の《雪崩し》が生存を許さない。
今度は逆にこちらから攻めてやるとばかりに、
阿部は《ギトゥの宿営地》をクリーチャー化し、攻撃を仕掛けるも、
これに対しては中山の《つっかかり》。
お互いに火力とクリーチャーをぶつけあう消耗戦の様相となり、
しばらくの間、お互いに目立ったアクションもないまま盤面は硬直する。
試合を制したのは、中山の引きの強さだった。
場が空になった状態から、《ボガード突撃隊》を引き当て、
即座に3点のダメージを本体へとたたき込む。
更に続くターン、彼がデッキトップからドローしたのは《復讐の亜神》。
ボガード突撃隊と合わせて8点クロックとして、容赦なく阿部を攻める。
対抗策を何とか探そうとした阿部だが、
彼のデッキの構成上、今引き勝負となると不利なのは否めない。
《復讐の亜神》を捌くカードを引く事が出来ず、
1ゲーム目のお返しとばかりに、阿部は高コストクリーチャーに押し潰された。
中山 win!
中山 1 - 1 阿部
----------------------------------------------
Sideboarding
ここで、面白い現象が起こる。
阿部のサイドボードには、同型を意識した《ドラゴンの爪》が用意されていた。
しかし、阿部はGame2にはそれをサイドインせずに眠らせたままにしておいた。
そして、Game3ではうってかわって《ドラゴンの爪》をガン積みしたのだ。
一方、中山のデッキにはメインボードから《粉々》が入れられていた。
《ドラゴンの爪》を警戒してか、Game2も《粉々》はメインに入れられたままだ。
しかし、阿部のデッキに《ドラゴンの爪》以外のアーティファクトは無い。
1戦目、2戦目とも、常に手札で腐っていたカードとなっていた。
その為か、中山はGame3に《粉々》を全抜きする判断を下した。
結果、どうなるか。
この両者の動きを分かりやすく示すと、以下の通りとなる
中山 阿部
Game1 《粉々》in アーティファクト無し
Game2 《粉々》in アーティファクト無し
Game2 《粉々》out 《ドラゴンの爪》in
偶然とは言え、サイドボードの段階で、
阿部が相当有利な立場に立っている事が伺える。
マジックに勝つ為には、運とプレイングが必要なのは今更言うまでもないが、
相手のデッキを読んでデッキを構築するという技術も必要なのだ、という事を
改めて筆者は認識しつつ、両者のサイドボードを見守った。
------------------------------------------------
Game 3
先手は阿部。
何と、彼は土地1枚でキープを宣言。
極端に軽い構成にしてある彼のデッキだからこそ可能な荒技だ。
そして、さきほどの負けを取り返してやるといわんばかりに、
《冠雪の山》をセットし、《裂け目の稲妻》を待機させる。
対する中山のハンドは《カメレオンの巨像》《雲打ち》などの
カードパワーは高いものの重いカードで満たされ、動けないままだ。
阿部の勢いは止まらず、中山の動きが止まっているのを好機と見て
続けざまに《裂け目の稲妻》を追加で待機させ、
更に《ぼろ布食いの偏執狂》を盤面に追加し、攻めの手を全く緩めない。
中山が何とか対抗しようと送り出した《ボガードの突撃隊》に対しても
即座に《つっかかり》が撃ち込まれ、勢いは止まらない。
更に追加される《ぼろ布食いの偏執狂》、そして《裂け目の稲妻》。
対抗手段を持たない中山は、もの凄い勢いでライフが削られていく。
そのまま逆転する事もなく、阿部は中山のライフを削りきる。
手札の《雲打ち》が寂しそうに佇んでいた。
赤t黒緑と超速攻赤単のアルターネイト赤単対決は、
超速攻赤単の真髄を見せつけ、阿部が勝利する結末となった。
中山 1 - 2 阿部
阿部 Victory!!
------------------------------------------
次回予告
R3 渡辺(Project420.5n) vs 井上(緑単ビッグマナ)
奇妙な巡り合わせである。
渡辺と井上は、先日のICA8周年大会において、決勝卓で対戦を行った二人だ。
そして、その時の様子は、偶然にも同じく筆者がカバレッジを書いている。
(参考URL:http://kitaevent.paslog.jp/article/922902.html)
何か因縁めいたものを感じるこの対戦。
8周年記念大会では井上のビッグマナが渡辺の赤黒トークンズを制したが、
今回は、勝利の女神は井上と渡辺、どちらに微笑む事になるのだろうか。
今回の夏の陣が最後となるfinals予選。
プレミア予選への権利を勝ち取るため、あるいはByeを勝ち取るためには、
まず初戦を落とさずに勝利する事が非常に重要となる。
その大事な初戦、早くも火花を散らしているテーブルが1卓。
千葉(青黒フェアリー)と小林(青黒フェアリー)の対戦である。
千葉は最近色々と話題を巻き起こしているプレイヤーである。
最近ではその叫び大口っぷりがますます板に付いてきた感があるが、
決して口だけではなく、マジックの腕も確かなものであり、
finals予選冬の陣にて1位通過し、プレミア予選への権利を既に勝ち取っている。
また、本年の日本選手権北海道予選を1位で通過し、本戦の権利を獲得している。
日本選手権本戦ではその実力を遺憾なく発揮してくれる事だろう。
小林は、以前は北海道を中心に活動を行っていたが、
今は関東へと引っ越し、そちらを中心に活動を行っているプレイヤーだ。
何と高校ではマジック部の部長を務めていたという実績を持ち、
先日行われたGP神戸にも参加しており、こよなくマジックを愛する様子が伺える。
そんな彼はこの夏、一ヶ月ほど北海道へと帰ってきており、
本日は半ばゲスト的な位置づけとしてfinals予選へ参加している。
二人に試合前の心意気を聞いてみると
千葉は「まあ、消化試合やろ」と余裕の表情。
小林は、それに対抗するように「ま、まあ、消化試合ですね」と返す。
かくして、1戦目の幕は開かれた。
---------------------------------------------------------
Game 1
先手は千葉。
フェアリーの最強武器である《祖先の幻視》と《苦花》が無いものの
序盤を凌いで後に繋げよう、といった算段か。
千葉は《島》をセットしてエンド、小林も《島》をセットしてエンド。
1ターン目はお互い静かな立ち上がりだ。
2ターン目、千葉は《沼》をセットし、ターンを渡す。
小林は《島》をセットし、何もアクションが無いままエンドを宣言。
千葉はエンド宣言に合わせて《呪文詰まりのスプライト》をプレイする。
場に出たスプライトは、1点クロックとして千葉の力となる。
3ターン目、千葉は《地底の大河》をセットしてエンド。
ここで、何故か小林が怪訝な表情をして《地底の大河》を見る。
基本カードである《地底の大河》を知らない、という事はまさか無いだろうが、
小林は《地底の大河》を何度も確認し、暫くした後にゲームを進める。
小林のターン、千葉は《ヴェンディリオン三人衆》をプレイ。
確認したハンドは
千葉は《ウーナの末裔》をボトムに送る事を宣言する。
小林は《やっかい児》を盤面に送り出し、何とか千葉に対抗しようと試みる。
場に出たクロックで攻め立てる千葉、何とか反撃の機会を待つ小林。
暫くの間、ダメージレースが繰り広げられるも、
クロックの大きさから千葉が有利な展開が続く。
その均衡を崩そうと先に動いたのは小林。
《名も無き転置》をプレイし、相手のクロックを減少しようと目論む。
しかし、対応して千葉がプレイしたのは《ウーナの末裔》。
クロックを減少させるどころか、藪蛇で逆に増やしてしまう結果となる。
末裔をカウンターしようとするも、千葉は《ルーンのほつれ》でケア。
一気に増強されたフェアリー軍団の前に、小林が打てる手は無かった。
千葉 1-0 小林
---------------------------------------------------------
Sideboarding
1戦目が終わった所で事件は発生した。
小林はポツリと「今日、ブロック構築の大会かと思ってた」と呟いたのだ。
その呟きにツッコミを入れる一同。
なるほど、《地底の大河》を見た時の不可解な顔はその為か。
小林は《祖先の幻視》や《ルーンのほつれ》といった優秀カードを使えないまま
不本意ながらも非常に辛い戦いを強いられる結果となってしまう。
しかし、試合が始まってしまった後で気がついても後の祭。
やや落胆した表情ながら、小林はサイドボーディングを始める。
----------------------------------------------------
Game 2
先手は小林、《沼》を置いてターンを渡す。
千葉は《島》をセットし、悠々と《祖先の幻視》をセットする。
早くもスタンダードとブロック構築の差を見せつけられる小林。
《祖先の幻視》が解ければ待っているのは絶望的なアドバンテージ差。
焦る小林。しかし、彼は2ターン目に《苦花》をセットする事が出来ないまま
苦しい表情で千葉へとターンを渡す。
千葉も2ターン目に《苦花》をセットする事は出来ず、ドローゴー。
3ターン目、小林は有効なアクションが出来ないまま、ターンを終える。
と、そこに併せて千葉が《呪文詰まりのスプライト》をキャスト。
1ゲーム目と同じく、スプライトによるビートダウンを試みる。
そして、千葉の3ターン目。山の上から引いたカードは、何と《苦花》。
引きの強さを見せつけながら、千葉は《苦花》をセット。
小林の手札に、それを阻止する術は無く、場に出てしまう。
《祖先の幻視》と《苦花》という、
フェアリーの”勝利フラグ”とも言うべきカードが二つとも場に出てしまい、
小林は青ざめた表情を浮かべる。
しかも、小林は更に不運な事に、土地が3枚で止まってしまう事故に見舞われる。
《霧縛りの徒党》や《謎めいた命令》といった、主力カードを使うためには、
4マナ域へのアクセスが止まる事は致命的となりえる。
小林は何とかこの場を凌ごうと、《ウーナの末裔》をプレイするが
千葉の《コショウ煙》によって、除去された上にカードをドローされてしまう。
勢いに乗って《祖先の幻視》と《苦花》を構えて攻め立てる千葉。
そのどちらも無く、土地が3枚で止まったままの小林。
彼が待望の4枚目の土地を引く頃には、
既に差は絶望的な程に開いてしまっていた。
小林が一縷の望みを掛けてプレイした《誘惑蒔き》も、
当然のように千葉の《ルーンのほつれ》によってカウンターされる。
小林は天を仰ぎ、負けを認めた。
千葉 2 - 0 小林
千葉 Victory!
-------------------------------
試合後、簡単なインタビューを行った。
― まずは、勝利おめでとうございます。
千葉「わいが勝つのは当たり前やろ、何を言っとるんや」
― そ、それは申し訳ありません。
今回はフェアリーミラーでしたが、何かそれについての感想は?
千葉「いやー、コショウ煙が刺さったな。このカードは強いわ」
― ありがとうございます。 残りの試合も頑張ってください。
--------------------------------
次回予告
R2 中山(赤スライ) vs 阿部(赤単)
どちらも赤を軸に、相手へと攻め立てるデッキ構成。
しかし、ミラーマッチかと思いきや、全く構成の違う両者のデッキ。
中山のデッキは誰もが驚く赤スライタッチ《雲打ち》
阿部のデッキは亜神無し、1マナ域23枚の赤単スライ
という、現行の流行である赤単とはひと味違ったデッキとなっている。
文字通りの「熱い戦い」を制するのはどちらか、乞うご期待。
プレミア予選への権利を勝ち取るため、あるいはByeを勝ち取るためには、
まず初戦を落とさずに勝利する事が非常に重要となる。
その大事な初戦、早くも火花を散らしているテーブルが1卓。
千葉(青黒フェアリー)と小林(青黒フェアリー)の対戦である。
千葉は最近色々と話題を巻き起こしているプレイヤーである。
最近ではその叫び大口っぷりがますます板に付いてきた感があるが、
決して口だけではなく、マジックの腕も確かなものであり、
finals予選冬の陣にて1位通過し、プレミア予選への権利を既に勝ち取っている。
また、本年の日本選手権北海道予選を1位で通過し、本戦の権利を獲得している。
日本選手権本戦ではその実力を遺憾なく発揮してくれる事だろう。
小林は、以前は北海道を中心に活動を行っていたが、
今は関東へと引っ越し、そちらを中心に活動を行っているプレイヤーだ。
何と高校ではマジック部の部長を務めていたという実績を持ち、
先日行われたGP神戸にも参加しており、こよなくマジックを愛する様子が伺える。
そんな彼はこの夏、一ヶ月ほど北海道へと帰ってきており、
本日は半ばゲスト的な位置づけとしてfinals予選へ参加している。
二人に試合前の心意気を聞いてみると
千葉は「まあ、消化試合やろ」と余裕の表情。
小林は、それに対抗するように「ま、まあ、消化試合ですね」と返す。
かくして、1戦目の幕は開かれた。
---------------------------------------------------------
Game 1
先手は千葉。
《呪文詰まりのスプライト》というハンドを少し悩んだ後にキープ。
《ルーンのほつれ》
《ルーンのほつれ》
《ヴェンディリオン三人衆》
《名も無き転置》
《島》
《沼》
フェアリーの最強武器である《祖先の幻視》と《苦花》が無いものの
序盤を凌いで後に繋げよう、といった算段か。
千葉は《島》をセットしてエンド、小林も《島》をセットしてエンド。
1ターン目はお互い静かな立ち上がりだ。
2ターン目、千葉は《沼》をセットし、ターンを渡す。
小林は《島》をセットし、何もアクションが無いままエンドを宣言。
千葉はエンド宣言に合わせて《呪文詰まりのスプライト》をプレイする。
場に出たスプライトは、1点クロックとして千葉の力となる。
3ターン目、千葉は《地底の大河》をセットしてエンド。
ここで、何故か小林が怪訝な表情をして《地底の大河》を見る。
基本カードである《地底の大河》を知らない、という事はまさか無いだろうが、
小林は《地底の大河》を何度も確認し、暫くした後にゲームを進める。
小林のターン、千葉は《ヴェンディリオン三人衆》をプレイ。
確認したハンドは
《霧縛りの徒党》といった顔ぶれ。
《ウーナの末裔》
《やっかい児》
《名も無き転置》
《誘惑蒔き》
千葉は《ウーナの末裔》をボトムに送る事を宣言する。
小林は《やっかい児》を盤面に送り出し、何とか千葉に対抗しようと試みる。
場に出たクロックで攻め立てる千葉、何とか反撃の機会を待つ小林。
暫くの間、ダメージレースが繰り広げられるも、
クロックの大きさから千葉が有利な展開が続く。
その均衡を崩そうと先に動いたのは小林。
《名も無き転置》をプレイし、相手のクロックを減少しようと目論む。
しかし、対応して千葉がプレイしたのは《ウーナの末裔》。
クロックを減少させるどころか、藪蛇で逆に増やしてしまう結果となる。
末裔をカウンターしようとするも、千葉は《ルーンのほつれ》でケア。
一気に増強されたフェアリー軍団の前に、小林が打てる手は無かった。
千葉 1-0 小林
---------------------------------------------------------
Sideboarding
1戦目が終わった所で事件は発生した。
小林はポツリと「今日、ブロック構築の大会かと思ってた」と呟いたのだ。
その呟きにツッコミを入れる一同。
なるほど、《地底の大河》を見た時の不可解な顔はその為か。
小林は《祖先の幻視》や《ルーンのほつれ》といった優秀カードを使えないまま
不本意ながらも非常に辛い戦いを強いられる結果となってしまう。
しかし、試合が始まってしまった後で気がついても後の祭。
やや落胆した表情ながら、小林はサイドボーディングを始める。
----------------------------------------------------
Game 2
先手は小林、《沼》を置いてターンを渡す。
千葉は《島》をセットし、悠々と《祖先の幻視》をセットする。
早くもスタンダードとブロック構築の差を見せつけられる小林。
《祖先の幻視》が解ければ待っているのは絶望的なアドバンテージ差。
焦る小林。しかし、彼は2ターン目に《苦花》をセットする事が出来ないまま
苦しい表情で千葉へとターンを渡す。
千葉も2ターン目に《苦花》をセットする事は出来ず、ドローゴー。
3ターン目、小林は有効なアクションが出来ないまま、ターンを終える。
と、そこに併せて千葉が《呪文詰まりのスプライト》をキャスト。
1ゲーム目と同じく、スプライトによるビートダウンを試みる。
そして、千葉の3ターン目。山の上から引いたカードは、何と《苦花》。
引きの強さを見せつけながら、千葉は《苦花》をセット。
小林の手札に、それを阻止する術は無く、場に出てしまう。
《祖先の幻視》と《苦花》という、
フェアリーの”勝利フラグ”とも言うべきカードが二つとも場に出てしまい、
小林は青ざめた表情を浮かべる。
しかも、小林は更に不運な事に、土地が3枚で止まってしまう事故に見舞われる。
《霧縛りの徒党》や《謎めいた命令》といった、主力カードを使うためには、
4マナ域へのアクセスが止まる事は致命的となりえる。
小林は何とかこの場を凌ごうと、《ウーナの末裔》をプレイするが
千葉の《コショウ煙》によって、除去された上にカードをドローされてしまう。
勢いに乗って《祖先の幻視》と《苦花》を構えて攻め立てる千葉。
そのどちらも無く、土地が3枚で止まったままの小林。
彼が待望の4枚目の土地を引く頃には、
既に差は絶望的な程に開いてしまっていた。
小林が一縷の望みを掛けてプレイした《誘惑蒔き》も、
当然のように千葉の《ルーンのほつれ》によってカウンターされる。
小林は天を仰ぎ、負けを認めた。
千葉 2 - 0 小林
千葉 Victory!
-------------------------------
試合後、簡単なインタビューを行った。
― まずは、勝利おめでとうございます。
千葉「わいが勝つのは当たり前やろ、何を言っとるんや」
― そ、それは申し訳ありません。
今回はフェアリーミラーでしたが、何かそれについての感想は?
千葉「いやー、コショウ煙が刺さったな。このカードは強いわ」
― ありがとうございます。 残りの試合も頑張ってください。
--------------------------------
次回予告
R2 中山(赤スライ) vs 阿部(赤単)
どちらも赤を軸に、相手へと攻め立てるデッキ構成。
しかし、ミラーマッチかと思いきや、全く構成の違う両者のデッキ。
中山のデッキは誰もが驚く赤スライタッチ《雲打ち》
阿部のデッキは亜神無し、1マナ域23枚の赤単スライ
という、現行の流行である赤単とはひと味違ったデッキとなっている。
文字通りの「熱い戦い」を制するのはどちらか、乞うご期待。
GP神戸終了 と ICA8周年記念大会決勝戦カバレッジ
2008年8月4日 カバレッジGP神戸に出た皆さんはお疲れ様でした。
11位のカズさん、15位のYyさんも大健闘。
帰ってきた時どれくらいポイントを吸っているのか楽しみですw
-----------------------------------
そんな感じで世間ではGP神戸の話題で一色ですが、
自分は出場していないので、何とも語りにくい。
という訳で、くらげ杯に関連して(?)
ICA8周年記念大会の決勝戦のカバレッジを書いたのを思い出したので
こちらにはりつけておきます。くらげの晴れ舞台。
http://kitaevent.paslog.jp/article/922902.html
ブログの投稿日時の関係上、こうしないとあまり読まれない気がしたので宣伝宣伝。
カバレッジももっと色々書いてみたいですが、
大会がある時はプレイヤーとして参加したくなってしまうジレンマ。
11位のカズさん、15位のYyさんも大健闘。
帰ってきた時どれくらいポイントを吸っているのか楽しみですw
-----------------------------------
そんな感じで世間ではGP神戸の話題で一色ですが、
自分は出場していないので、何とも語りにくい。
という訳で、くらげ杯に関連して(?)
ICA8周年記念大会の決勝戦のカバレッジを書いたのを思い出したので
こちらにはりつけておきます。くらげの晴れ舞台。
http://kitaevent.paslog.jp/article/922902.html
ブログの投稿日時の関係上、こうしないとあまり読まれない気がしたので宣伝宣伝。
カバレッジももっと色々書いてみたいですが、
大会がある時はプレイヤーとして参加したくなってしまうジレンマ。
6月21日(金) イエローサブマリン札幌店にて。
その場所では、毎週恒例となったFNMが開催されていた。
上位卓にヒバリやフェアリー、緑黒エルフといった強豪デッキが出揃い、
今日もまた、決闘者達がお互いの意地をかけて火花を散らしていた。
しかし、その強豪達とは別の場所で、異様な空気を放つ卓が存在した。
その卓では、カードをプレイされる度にざわめきが巻き起こり、歓声が止まない。
戦いを終えた筆者がその様子を見に行くと、思わず絶句した。
お互いの場に《虹色の前兆》が貼られている―――。
トーナメントシーンどころか、カジュアルでも見る事が少ないこのカード。
それをお互いにプレイしているとは、一体どういう事なのか。
嫌が応でも、筆者はその卓に引きつけられてしまった。
その卓は、FNM二戦目、アベvsナガハマの一戦。
今日、札幌マジック界に新たな伝説が生まれようとしていた。
このエントリーは、この名勝負に心打たれた筆者が、
自分の視点から再現したカバレッジとして書き記していきたいと思う。
※但し、明確な記録を録っておらず、記憶を頼りに書いているため、
実際のゲームのプレイに即していない内容となってしまっている部分が
多々見受けられると考えられる。その為、カバレッジとしてではなく、
あくまで現場の雰囲気を伝える“読み物”として捕らえて頂けるとありがたい。
この卓で戦っているアベとナガハマは、
お互い、フェアリーやエルフといった既存のアーキタイプを破棄し、
己の道を行くデッキを利用している。
中でも謎に包まれているのが、ナガハマのデッキである
「普通のデッキを持ってきてもつまらないので、
ちょっと場を和ませようと思って変なデッキを持ってきました。」
そう応えるナガハマのデッキを見た観客の声を聞くと、
――曰く「《刈り取りの王》が居るのを見た、あれはきっとカカシデッキだ。」
――曰く「何枚もカウンターをプレイしていた。きっとパーミ系のコントロールだ」
――曰く「《ラノワールのエルフ》も見た、ビッグマナ系のデッキか?」
と、まるで暗闇の中の象のように、掴み所が無い。
さて、実際の戦いの場に視点を移してみよう。
現在、経過したターンは…17〜8ターンほどと言った所だろうか。
お互いの場に、7〜8枚の土地カードが並んでいる。
現在は、アベのターン。
アベの場には、《突撃の地鳴り》がセットされており、
手札を覗いてみると《ブリン・アーゴルの白鳥》が見える。
成る程、いま巷で噂の”スワン・アサルト”のデッキタイプなのだろう。
《突撃の地鳴り》で要求される赤赤赤と
《ブリン・アーゴルの白鳥》に必要な白/青 白/青のマナを捻出するために
《虹色の前兆》で補おうという算段か。
しかし、コンボパーツの為の赤マナと白/青マナを捻出したいだけであれば、
《シヴの浅瀬》や《反射池》といった優秀な土地を利用すれば事足りる。
わざわざ緑にまで足を伸ばしては、逆に事故率を上げるだけなのでは?
―そう考えた筆者の考えがいかに浅はかだったのか、次の瞬間に知る事になる。
更に手札をよく見ると、何と《きらめく願い》も見えるではないか。
成る程・・・と、内心舌打ちをする筆者。
デッキに3枚入った《ブリン・アーゴルの白鳥》に加えて、
おそらく4枚投入されているであろう《きらめく願い》。
多色である《ブリン・アーゴルの白鳥》は、願いからアクセスが可能。
つまり、彼のデッキには、実質7枚の白鳥が存在しているに等しい。
そして更に《虹色の前兆》による多色化の恩恵を受けた彼のサイドボードは
色制限を考えない、強力なカード達が息を潜めて待っているのだろう。
アベは《きらめく願い》をプレイ。
持ってくる対象は、彼のデッキの主役でもある《ブリン・アーゴルの白鳥》
これにより、アベの手札には白鳥が2枚となった。
仮に1枚を消されても、もう1枚をごり押して通す算段なのだろう。
しかし、十分なマナを用意できないアベは、そのままターンを返す。
ターンを受けたナガハマ。
そのナガハマの場には《虹色の前兆》と《ラノワールのエルフ》、そして《屑鉄カゴ》
……《屑鉄カゴ》!?
虹色の前兆に続いて、トーナメントではおおよそ見られない光景に面食らう筆者。
《虹色の前兆》と《屑鉄カゴ》…。
この組み合わせを見た時、一枚のとあるカードが脳裏を過ぎる。
勘の良い読者ならば気がついているであろう、”あの”カードである。
だが、まさか、と、その時は誰もが苦笑を浮かべるだけだった。
ナガハマはそのまま、戦闘フェイズへと移行し、
《ラノワールのエルフ》と《屑鉄カゴ》で相手へと殴りかかろうとする。
しかし《突撃の地鳴り》から放たれた2枚の土地が、2体のクリーチャーを粉砕する。
これにより、場からクリーチャーが消え去り、一種の平穏な状態が生まれる。
ナガハマは焼かれたクリーチャー達を悔しそうに見ながら、ターンを返す。
返すアベのターン、彼は、二枚目の《きらめく願い》をプレイする。
そしてサイドボードから持ってくるのは――《調和スリヴァー》
相手のエンチャントやアーティファクトを割る事が出来るこのクリーチャーは、
《きらめく願い》からアクセスするカードとしては非常に優秀な1枚だ。
そしてアベは《調和スリヴァー》をプレイし、
相手の《虹色の前兆》を破壊――――しない。
何を思ったのか、《調和スリヴァー》は手札に温存したまま、相手へとターンを返す。
続くナガハマのターン。
なかなか思うようにカードを引けないのか、苦い表情のナガハマ。
何もアクションを起こす事なく、アベへとターンを返す。
アベのターン。
8枚の土地が揃い、《ブリン・アーゴルの白鳥》も2枚手元に確保した。
もはや何も迷う事は無い。アベは《ブリン・アーゴルの白鳥》をプレイする。
対するナガハマのアクションは…カウンターが手元に無かったのだろう。何も対応はしない。
《ブリン・アーゴルの白鳥》は、その相棒である《突撃の地鳴り》を傍らに場に降臨した。
”スワン・アサルト”を相手にその2枚を場に出してしまうのは、死の代名詞だ。
仮にアベの手に最後のパーツである《ダグムーアの回収場》があればゲームが終わる。
…が、幸運な事に(アベにとっては不運な事に)コンボはスタートしない。
最後の鍵は、未だに彼のデッキの中に眠っているという事か。
そして、アベはナガハマへとターンを渡す。
首の皮1枚で命が繋がったナガハマ。
祈るようにカードをドローし…引いたカードを見て、口許を吊り上げる。
ナガハマの手から放たれたカードは・・・何と、《レガシーの兵器》。
そのカードを見た瞬間、アベの顔色が変わる。
同時に、ギャラリーから大きなどよめきが起こる。
「対象のパーマネント一つを破壊する」…強力無比な効果を持つこのカードは
白青黒赤緑、という冗談の様なマナを要求されるため、
単なるネタカードだと思われていた代物である。――今、この瞬間までは。
しかし、10枚もの土地が並び、《虹色の前兆》が場に出ている今の状況では、
まさに、最終兵器と呼ぶに相応しいカードとして、場に降臨した。
この悪魔の兵器の前では、例え除去の難しいエンチャントであろうが、
ダメージを無効にする白鳥であろうが、問答無用で破壊していくだろう。
自信満々の笑みで、ナガハマはアベへとターンを返す。
アベのターン。
最終兵器を目の前に、戦々恐々とするアベ。
問答無用にパーマネントを破壊していくあの兵器に、抗う術などあるのだろうか。
回答を求めて冷静に手札を見てみると・・・。 あった。
アベの手には、先程《きらめく願い》から持ってきた《調和スリヴァー》が。
先程、《虹色の前兆》を壊す事を見送った為に、未だ彼の手に留まっていたのだ。
このカードならば、アーティファクトである《レガシーの兵器》を壊す事が出来る。
ここで、相手がカウンターを持っていれば一巻の終わり。
…だが、彼に残された手段はそれしか無い。
祈るような気持ちで、《調和スリヴァー》をプレイ。
……そして、ナガハマは通しを宣言。
それと同時に、悪魔の兵器は音を立てて砕け散る。
ほっと胸を撫で下ろすアベ。
しかし、悪魔の兵器もただでは終わらなかった。
ナガハマの場には、5枚の土地がアンタップ状態で存在していたのだ。
5枚の土地をタップしてマナを捻出し、崩れ行く《レガシーの兵器》が咆吼を上げる。
その対象は《突撃の地鳴り》。
《レガシーの兵器》から放たれた光が、《突撃の地鳴り》を破壊する。
これで、“スワン・アサルト”の重要なコンボパーツが一つ無くなり、
アベは勝ちへの道のりが大きく遠のいてしまう結果となった。
しかし、アベの場には依然として《ブリン・アーゴルの白鳥》が存在し、
更に《調和スリヴァー》も加わり、5点クロックの体勢が出来上がっている。
対するナガハマの場には《虹色の前兆》が寂しく存在するのみ。
状況は、依然としてアベの有利であると言えるだろう。
アベは《ブリン・アーゴルの白鳥》によるビートダウンを仕掛ける。
《レガシーの兵器》無き今、白鳥を止める手だては無く、4点ダメージを受けるナガハマ。
そして、アベはナガハマへとターンを渡す。
最終兵器とも言うべき《レガシーの兵器》さえも対応され、苦しい表情のナガハマ。
このままのライフでは、白鳥に殴られ、2ターン後には敗北となってしまう。
果たして、ここからナガハマが勝つビジョンは存在するのだろうか。
カードをドローし、ナガハマ、暫しの熟考。
「…賭けてみるか」
そう呟いてナガハマがプレイしたカードは…《刈り取りの王》。
威厳あるカカシの王が場に降臨し、相手を威嚇する。
カカシを場に出す事によってパーマネントを破壊する事ができるそのカードは、
《レガシーの兵器》に勝るとも劣らない制圧力を持つ。
確かに、このカードであれば、勝ちへと向けた一縷の望みを託す事が出来るだろう。
《屑鉄カゴ》のようなカカシカードがあれば、白鳥を除去する事も可能だ。
勝ちへの臨みを繋いで、ナガハマはアベへとターンを返す。
続くアベのターン。
《ブリン・アーゴルの白鳥》が牙を剥き、ナガハマへと襲いかかる。
《ブリン・アーゴルの白鳥》は、その能力に注目されがちであるが、
パワー4のフライヤーという訳で、十分過ぎるほどのカードパワーを秘めている。
飛行を持たぬ《刈り取りの王》に白鳥を止める術は無く、
強大な力を持つ白鳥の猛攻を受け、ナガハマのライフは残り僅か。
……あと一度でも白鳥に殴られれば、彼の命は終わりだ。
このまま、アベがナガハマを殴りきるのか、
それともナガハマが起死回生の一手を巻き起こすのか。
観客は固唾を呑んだまま、その動向を見守る。
そして、運命のナガハマのターン。
このターンで《ブリン・アーゴルの白鳥》に対する手段を講じなければ、
必然的に彼の敗北が決定してしまう。
ナガハマは、カードをドローし……そして、己の手札を眺める。
暫くの間の後に、彼は静かに、1枚のカードをプレイする。
そのカードの名は………。 《合同勝利》。
ナガハマは、《虹色の前兆》による基本地形5種を保有し、
《刈り取りの王》という5色のパーマネントのコントロールしている。
だが、万が一、そのいずれかが妨害されてしまえば、勝利は潰える結果となる。
それに対応するアベの策は………無かった。
《刈り取りの王》を除去する為の《突撃の地鳴り》は、
《レガシーの兵器》によって消滅させられてしまった。
《虹色の前兆》を壊す事が出来る《調和スリヴァー》は
《レガシーの兵器》に対して使ってしまった為、エンチャントに対しては手が出せない。
一見無駄に見えた《屑鉄カゴ》や《ラノワールのエルフ》といったカード達も
その実、《突撃の地鳴り》によるダメージを軽減する避雷針としての役割を担い
結果、ナガハマは1ターン延命という結果を得て、《合同勝利》をプレイする事ができた。
一見バラバラに見えたナガハマのカード達が、
“勝利”という一つの目的の為に道を切り開いたのだ。
アベは、黄金色に輝く《合同勝利》を呆然と眺めながら、力なく、負けを認めた。
その瞬間、会場からは健闘を称える拍手の音で埋め尽くされ、勝者を祝福する。
「こんな場を見るのは、これから前にも、これから先にも無いだろう」
「記念写真を是非撮らせてください!」
興奮冷めやらぬ様子で語りかける観客達。
「みんなをなごませるという目標が達成できて嬉しい」
と、少し照れくさそうにナガハマは応えた。
この日、札幌のMTG界に一つの伝説が生まれた。
しかし、これで戦いは終わった訳ではない、
ゲームカウントは、これで[アベ1- 1ナガハマ]となった。
ひとしきり賞賛の言葉を浴びると、サイドボーディングにかかる両者。
熱い夜は、まだまだ続いていくのだろう。
その場所では、毎週恒例となったFNMが開催されていた。
上位卓にヒバリやフェアリー、緑黒エルフといった強豪デッキが出揃い、
今日もまた、決闘者達がお互いの意地をかけて火花を散らしていた。
しかし、その強豪達とは別の場所で、異様な空気を放つ卓が存在した。
その卓では、カードをプレイされる度にざわめきが巻き起こり、歓声が止まない。
戦いを終えた筆者がその様子を見に行くと、思わず絶句した。
お互いの場に《虹色の前兆》が貼られている―――。
虹色の前兆/Prismatic Omen (1)(緑)
エンチャント SHM, レア
あなたがコントロールする土地は、自身の他のタイプに加えてすべての基本土地タイプでもある。
トーナメントシーンどころか、カジュアルでも見る事が少ないこのカード。
それをお互いにプレイしているとは、一体どういう事なのか。
嫌が応でも、筆者はその卓に引きつけられてしまった。
その卓は、FNM二戦目、アベvsナガハマの一戦。
今日、札幌マジック界に新たな伝説が生まれようとしていた。
このエントリーは、この名勝負に心打たれた筆者が、
自分の視点から再現したカバレッジとして書き記していきたいと思う。
※但し、明確な記録を録っておらず、記憶を頼りに書いているため、
実際のゲームのプレイに即していない内容となってしまっている部分が
多々見受けられると考えられる。その為、カバレッジとしてではなく、
あくまで現場の雰囲気を伝える“読み物”として捕らえて頂けるとありがたい。
この卓で戦っているアベとナガハマは、
お互い、フェアリーやエルフといった既存のアーキタイプを破棄し、
己の道を行くデッキを利用している。
中でも謎に包まれているのが、ナガハマのデッキである
「普通のデッキを持ってきてもつまらないので、
ちょっと場を和ませようと思って変なデッキを持ってきました。」
そう応えるナガハマのデッキを見た観客の声を聞くと、
――曰く「《刈り取りの王》が居るのを見た、あれはきっとカカシデッキだ。」
――曰く「何枚もカウンターをプレイしていた。きっとパーミ系のコントロールだ」
――曰く「《ラノワールのエルフ》も見た、ビッグマナ系のデッキか?」
と、まるで暗闇の中の象のように、掴み所が無い。
さて、実際の戦いの場に視点を移してみよう。
現在、経過したターンは…17〜8ターンほどと言った所だろうか。
お互いの場に、7〜8枚の土地カードが並んでいる。
現在は、アベのターン。
アベの場には、《突撃の地鳴り》がセットされており、
手札を覗いてみると《ブリン・アーゴルの白鳥》が見える。
成る程、いま巷で噂の”スワン・アサルト”のデッキタイプなのだろう。
《突撃の地鳴り》で要求される赤赤赤と
《ブリン・アーゴルの白鳥》に必要な白/青 白/青のマナを捻出するために
《虹色の前兆》で補おうという算段か。
しかし、コンボパーツの為の赤マナと白/青マナを捻出したいだけであれば、
《シヴの浅瀬》や《反射池》といった優秀な土地を利用すれば事足りる。
わざわざ緑にまで足を伸ばしては、逆に事故率を上げるだけなのでは?
―そう考えた筆者の考えがいかに浅はかだったのか、次の瞬間に知る事になる。
更に手札をよく見ると、何と《きらめく願い》も見えるではないか。
きらめく願い/Glittering Wish (緑)(白)
ソーサリー FUT, レア
ゲームの外部にある、あなたがオーナーである多色のカード1枚を選ぶ。そのカードを公開し、あなたの手札に加える。きらめく願いをゲームから取り除く。
成る程・・・と、内心舌打ちをする筆者。
デッキに3枚入った《ブリン・アーゴルの白鳥》に加えて、
おそらく4枚投入されているであろう《きらめく願い》。
多色である《ブリン・アーゴルの白鳥》は、願いからアクセスが可能。
つまり、彼のデッキには、実質7枚の白鳥が存在しているに等しい。
そして更に《虹色の前兆》による多色化の恩恵を受けた彼のサイドボードは
色制限を考えない、強力なカード達が息を潜めて待っているのだろう。
アベは《きらめく願い》をプレイ。
持ってくる対象は、彼のデッキの主役でもある《ブリン・アーゴルの白鳥》
これにより、アベの手札には白鳥が2枚となった。
仮に1枚を消されても、もう1枚をごり押して通す算段なのだろう。
しかし、十分なマナを用意できないアベは、そのままターンを返す。
ターンを受けたナガハマ。
そのナガハマの場には《虹色の前兆》と《ラノワールのエルフ》、そして《屑鉄カゴ》
……《屑鉄カゴ》!?
屑鉄カゴ/Scrapbasket (4)
アーティファクト・クリーチャー カカシ(Scarecrow) SHM, コモン
(1):屑鉄カゴはターン終了時まですべての色になる。
3/2
虹色の前兆に続いて、トーナメントではおおよそ見られない光景に面食らう筆者。
《虹色の前兆》と《屑鉄カゴ》…。
この組み合わせを見た時、一枚のとあるカードが脳裏を過ぎる。
勘の良い読者ならば気がついているであろう、”あの”カードである。
だが、まさか、と、その時は誰もが苦笑を浮かべるだけだった。
ナガハマはそのまま、戦闘フェイズへと移行し、
《ラノワールのエルフ》と《屑鉄カゴ》で相手へと殴りかかろうとする。
しかし《突撃の地鳴り》から放たれた2枚の土地が、2体のクリーチャーを粉砕する。
これにより、場からクリーチャーが消え去り、一種の平穏な状態が生まれる。
ナガハマは焼かれたクリーチャー達を悔しそうに見ながら、ターンを返す。
返すアベのターン、彼は、二枚目の《きらめく願い》をプレイする。
そしてサイドボードから持ってくるのは――《調和スリヴァー》
調和スリヴァー/Harmonic Sliver (1)(緑)(白)
クリーチャー スリヴァー(Sliver) TSP, アンコモン
すべてのスリヴァーは「このパーマネントが場に出たとき、アーティファクト1つかエンチャント1つを対象とし、それを破壊する。」を持つ。
1/1
相手のエンチャントやアーティファクトを割る事が出来るこのクリーチャーは、
《きらめく願い》からアクセスするカードとしては非常に優秀な1枚だ。
そしてアベは《調和スリヴァー》をプレイし、
相手の《虹色の前兆》を破壊――――しない。
何を思ったのか、《調和スリヴァー》は手札に温存したまま、相手へとターンを返す。
続くナガハマのターン。
なかなか思うようにカードを引けないのか、苦い表情のナガハマ。
何もアクションを起こす事なく、アベへとターンを返す。
アベのターン。
8枚の土地が揃い、《ブリン・アーゴルの白鳥》も2枚手元に確保した。
もはや何も迷う事は無い。アベは《ブリン・アーゴルの白鳥》をプレイする。
対するナガハマのアクションは…カウンターが手元に無かったのだろう。何も対応はしない。
《ブリン・アーゴルの白鳥》は、その相棒である《突撃の地鳴り》を傍らに場に降臨した。
”スワン・アサルト”を相手にその2枚を場に出してしまうのは、死の代名詞だ。
仮にアベの手に最後のパーツである《ダグムーアの回収場》があればゲームが終わる。
…が、幸運な事に(アベにとっては不運な事に)コンボはスタートしない。
最後の鍵は、未だに彼のデッキの中に眠っているという事か。
そして、アベはナガハマへとターンを渡す。
首の皮1枚で命が繋がったナガハマ。
祈るようにカードをドローし…引いたカードを見て、口許を吊り上げる。
ナガハマの手から放たれたカードは・・・何と、《レガシーの兵器》。
そのカードを見た瞬間、アベの顔色が変わる。
同時に、ギャラリーから大きなどよめきが起こる。
レガシーの兵器/Legacy Weapon (7)
伝説のアーティファクト 10E, レア
(白)(青)(黒)(赤)(緑):パーマネント1つを対象とし、それをゲームから取り除く。
レガシーの兵器が墓地に置かれる場合、代わりにレガシーの兵器を公開し、それをオーナーのライブラリーに加えて切り直す。
「対象のパーマネント一つを破壊する」…強力無比な効果を持つこのカードは
白青黒赤緑、という冗談の様なマナを要求されるため、
単なるネタカードだと思われていた代物である。――今、この瞬間までは。
しかし、10枚もの土地が並び、《虹色の前兆》が場に出ている今の状況では、
まさに、最終兵器と呼ぶに相応しいカードとして、場に降臨した。
この悪魔の兵器の前では、例え除去の難しいエンチャントであろうが、
ダメージを無効にする白鳥であろうが、問答無用で破壊していくだろう。
自信満々の笑みで、ナガハマはアベへとターンを返す。
アベのターン。
最終兵器を目の前に、戦々恐々とするアベ。
問答無用にパーマネントを破壊していくあの兵器に、抗う術などあるのだろうか。
回答を求めて冷静に手札を見てみると・・・。 あった。
アベの手には、先程《きらめく願い》から持ってきた《調和スリヴァー》が。
先程、《虹色の前兆》を壊す事を見送った為に、未だ彼の手に留まっていたのだ。
このカードならば、アーティファクトである《レガシーの兵器》を壊す事が出来る。
ここで、相手がカウンターを持っていれば一巻の終わり。
…だが、彼に残された手段はそれしか無い。
祈るような気持ちで、《調和スリヴァー》をプレイ。
……そして、ナガハマは通しを宣言。
それと同時に、悪魔の兵器は音を立てて砕け散る。
ほっと胸を撫で下ろすアベ。
しかし、悪魔の兵器もただでは終わらなかった。
ナガハマの場には、5枚の土地がアンタップ状態で存在していたのだ。
5枚の土地をタップしてマナを捻出し、崩れ行く《レガシーの兵器》が咆吼を上げる。
その対象は《突撃の地鳴り》。
《レガシーの兵器》から放たれた光が、《突撃の地鳴り》を破壊する。
これで、“スワン・アサルト”の重要なコンボパーツが一つ無くなり、
アベは勝ちへの道のりが大きく遠のいてしまう結果となった。
しかし、アベの場には依然として《ブリン・アーゴルの白鳥》が存在し、
更に《調和スリヴァー》も加わり、5点クロックの体勢が出来上がっている。
対するナガハマの場には《虹色の前兆》が寂しく存在するのみ。
状況は、依然としてアベの有利であると言えるだろう。
アベは《ブリン・アーゴルの白鳥》によるビートダウンを仕掛ける。
《レガシーの兵器》無き今、白鳥を止める手だては無く、4点ダメージを受けるナガハマ。
そして、アベはナガハマへとターンを渡す。
最終兵器とも言うべき《レガシーの兵器》さえも対応され、苦しい表情のナガハマ。
このままのライフでは、白鳥に殴られ、2ターン後には敗北となってしまう。
果たして、ここからナガハマが勝つビジョンは存在するのだろうか。
カードをドローし、ナガハマ、暫しの熟考。
「…賭けてみるか」
そう呟いてナガハマがプレイしたカードは…《刈り取りの王》。
刈り取りの王/Reaper King (2/白)(2/青)(2/黒)(2/赤)(2/緑)
伝説のアーティファクト・クリーチャー カカシ(Scarecrow) SHM, レア
(は任意の2マナか(白)で支払うことができる。このカードの点数で見たマナ・コストは10である。)
あなたがコントロールする他のカカシ・クリーチャーは+1/+1の修整を受ける。
他のカカシ・があなたのコントロール下で場に出るたび、パーマネント1つを対象とし、それを破壊する。
6/6
威厳あるカカシの王が場に降臨し、相手を威嚇する。
カカシを場に出す事によってパーマネントを破壊する事ができるそのカードは、
《レガシーの兵器》に勝るとも劣らない制圧力を持つ。
確かに、このカードであれば、勝ちへと向けた一縷の望みを託す事が出来るだろう。
《屑鉄カゴ》のようなカカシカードがあれば、白鳥を除去する事も可能だ。
勝ちへの臨みを繋いで、ナガハマはアベへとターンを返す。
続くアベのターン。
《ブリン・アーゴルの白鳥》が牙を剥き、ナガハマへと襲いかかる。
《ブリン・アーゴルの白鳥》は、その能力に注目されがちであるが、
パワー4のフライヤーという訳で、十分過ぎるほどのカードパワーを秘めている。
飛行を持たぬ《刈り取りの王》に白鳥を止める術は無く、
強大な力を持つ白鳥の猛攻を受け、ナガハマのライフは残り僅か。
……あと一度でも白鳥に殴られれば、彼の命は終わりだ。
このまま、アベがナガハマを殴りきるのか、
それともナガハマが起死回生の一手を巻き起こすのか。
観客は固唾を呑んだまま、その動向を見守る。
そして、運命のナガハマのターン。
このターンで《ブリン・アーゴルの白鳥》に対する手段を講じなければ、
必然的に彼の敗北が決定してしまう。
ナガハマは、カードをドローし……そして、己の手札を眺める。
暫くの間の後に、彼は静かに、1枚のカードをプレイする。
そのカードの名は………。 《合同勝利》。
合同勝利/Coalition Victory (3)(白)(青)(黒)(赤)(緑)
ソーサリー TSB, タイムシフト
あなたが、すべての基本土地タイプの土地をコントロールしており、すべての色のクリーチャーをコントロールしている場合、あなたはこのゲームに勝利する。
ナガハマは、《虹色の前兆》による基本地形5種を保有し、
《刈り取りの王》という5色のパーマネントのコントロールしている。
だが、万が一、そのいずれかが妨害されてしまえば、勝利は潰える結果となる。
それに対応するアベの策は………無かった。
《刈り取りの王》を除去する為の《突撃の地鳴り》は、
《レガシーの兵器》によって消滅させられてしまった。
《虹色の前兆》を壊す事が出来る《調和スリヴァー》は
《レガシーの兵器》に対して使ってしまった為、エンチャントに対しては手が出せない。
一見無駄に見えた《屑鉄カゴ》や《ラノワールのエルフ》といったカード達も
その実、《突撃の地鳴り》によるダメージを軽減する避雷針としての役割を担い
結果、ナガハマは1ターン延命という結果を得て、《合同勝利》をプレイする事ができた。
一見バラバラに見えたナガハマのカード達が、
“勝利”という一つの目的の為に道を切り開いたのだ。
アベは、黄金色に輝く《合同勝利》を呆然と眺めながら、力なく、負けを認めた。
その瞬間、会場からは健闘を称える拍手の音で埋め尽くされ、勝者を祝福する。
「こんな場を見るのは、これから前にも、これから先にも無いだろう」
「記念写真を是非撮らせてください!」
興奮冷めやらぬ様子で語りかける観客達。
「みんなをなごませるという目標が達成できて嬉しい」
と、少し照れくさそうにナガハマは応えた。
この日、札幌のMTG界に一つの伝説が生まれた。
しかし、これで戦いは終わった訳ではない、
ゲームカウントは、これで[アベ1- 1ナガハマ]となった。
ひとしきり賞賛の言葉を浴びると、サイドボーディングにかかる両者。
熱い夜は、まだまだ続いていくのだろう。